少し時間が空いてしまったが、アメリカに投資拠点を作ろうシリーズ第3弾、外国送金編をお送りしたい。
前回はこちら。
投資活動全般に言えることだが、まず第一に考えなければならないのが資本、いわゆるタネ銭をどう用意するかである。
私の場合ほとんどの資産は円ベースだったので、それをドルに換えてアメリカの銀行口座に持ってくる必要がある。つまり、外国送金が必要である。
外国送金する際に注意しなければならないのはコストが結構かかる点である。銀行によって名称は違うものの、コストは大まかに言ってビットオファースプレッド(売りと買いの価格差、以下BOS)と手数料(表面手数料)にわけられる。
表面手数料はどの銀行も必ずどこかに明示しているのでわかりやすいが、BOSは少し調べないとわからないので注意する必要がある。なお、都銀で円からドルに換える際のBOSは常に1円(約1%)となっている。
例えば手数料が0.5%、USD/JPYの為替レートが100円、BOSが1円の場合、100万円をドルに換えた場合にかかるコストは下記の通りとなる。
¥1,000,000×0.5%+¥1,000,000×1/100= ¥5,000+¥10,000=¥15,000→1.5%
ざっくり計算するにはこちらで十分だが、比較のためもうちょっと正確に計算してみる。
最終的に受け取れるドルがいくらなのか、が重要なのでまずそちらを計算する。
¥1,000,000×(1-0.5%)/(100+1)=$9,851
手数料0円の場合は¥1,000,000/100=$10,000得られるはずなので、実際にかかる手数料(実手数料)は、
$10,000-$9,851=$149→1.49%
となり、先に計算したものより0.01%ほど小さくなる。
以上を各送金業者ごとに計算したものが次の表である。(2017/11/16 12:00時点)
取引日時 | 11/16/2017 12:00 @JST | |||
---|---|---|---|---|
送金額 | ¥1,000,000 | |||
業者 | 表面手数料 | 為替レート | 受取額 | 実手数料 |
TTM | ¥0 | ¥112.97 | $8,851.91 | ¥0 |
Transferwise | ¥7,937 | ¥113.05 | $8,775.44 | ¥8,639 |
みずほ | ¥5,500 | ¥113.97 | $8,725.98 | ¥14,226 |
三菱東京UFJ | ¥7,000 | ¥113.97 | $8,712.82 | ¥15,713 |
三井住友 | ¥6,500 | ¥113.97 | $8,717.21 | ¥15,217 |
SBIレミット | ¥1,980 | ¥114.39 | $8,724.71 | ¥14,369 |
楽天 | ¥1,750 | ¥113.92 | $8,762.73 | ¥10,075 |
なお、実手数料はTTM(Telegraphic Transfer Middle Rate、対顧客電信相場仲値)で換算したドル金額(=全手数料が無料の時のドル受取額)との差額として計算した。
実手数料を比較してみると明らかにTransferwiseが安い。
原因は為替レートにBOSが乗せられておらず、ほぼTTMに等しくなっているためである。(ちなみにTransferwiseはリアルタイムレートを参照しているため、TTMとは若干の差異がある。)
表面手数料だけを比較すると他行のほうが安く見えることから、BOSの影響がいかに大きいかがわかる。
逆にSBIレミットは手数料は安いが為替レートがかなり高く、このときのマーケットでは3メガバンクより割高となっている。くれぐれも見かけの手数料にごまかされないように注意してほしい。
さらに、Transferwiseは決済スピードも速い。
私は全ての送金をTransferwise一社で行っているが、ほぼ2営業日でアメリカの自口座への入金が確認できている。 なお、日本の銀行が開いている時間帯でないと円の振込入金ができず、もう1営業日はかかるので注意してほしい。
48時間まで為替レートを固定できるというのも地味にすごい。
このため、マーケットを見て為替レートの良いときに約定してレートを固定しておき、
最大2日間入金せずにおいてレートが良くなればキャンセルして再度約定、悪くなればそのまま入金、みたいなカレンダー・アービトラージを取ることも出来る。
さて、この圧倒的な低コストを誇るTransferwiseとはいったいどんな業者なのか?
Transferwiseはフィンテック系スタートアップとして英国で産まれた新興の送金専用業者であり、すでにユニコーン企業(時価総額10億ドル以上)と化している。
その外国送金の仕組みは普通の銀行のそれと大きく異なる。
簡単に言うとTransferwiseがやっているのは単なるマッチングであり、実際に円やドルの交換はしていない。具体的な手続きは下記のような流れとなる。
簡単のため為替レート100円、手数料0円とする。
- 日本に100万円を持っていてアメリカに1万ドル送金したい人(以下Aさん)がいるとする。
- Transferwiseはその逆の送金がしたい人、つまりアメリカに1万ドルを持っていて日本に100万円を円送金したい人(以下Bさん)を探してマッチングする。
- 為替レートはTransferwiseが出し、AさんとBさんがそれに納得すれば約定となる。
- Aさんは100万円をTransferwise日本支店が持つ銀行口座に入金する。
- Bさんは1万ドルをTransferwiseアメリカ支店が持つ銀行口座に入金する。
- Transferwiseはそれぞれの入金を確認した後、1万ドルをAさんのアメリカの銀行口座に入金し、100万円をBさんの日本の銀行口座に入金する。
驚くことに、Transferwiseは国をまたぐ送金行為は一切しておらず、単に同じ国の銀行間で入金と出金をしているだけなのである。これだと通常の銀行がやっている外国送金のように、コルレス銀行と面倒な送金契約を結んだりSWIFT通信をしたりといった中間業務が一切必要なくなり、手数料や人件費、為替変動リスク等の大幅な削減が可能となる。これは安くなるはずだ。
もちろん、実際はAさんとBさんの金額が完全にマッチすることはまれなので、その差額を一時的に調整をするためにTransferwiseが各国にある程度のお金をプールしておく必要があったり、法律的には送金行為なので本人確認などのコンプライアンスチェックをする必要があったりと面倒な業務はある程度残っている。
ただ、そのコストも取引量が増えて流動性が増せば増すほど少なくなるので、シェアを取れば取るほど有利という勝者総取りの図式となる。
下記WSJ記事によると、同じような方法を使ったフィンテック・スタートアップ系送金業者は Transferwise以外にも当然いて( WorldRemit Ltd., Remitly Inc.,etc. )、その圧倒的なコストの安さと決済スピードの速さで旧来の銀行からシェアを奪いまくっているようだ。
Fintech Startups Seek to Shake Up Money-Transfer Industry
インドやメキシコなど、移民の多い国は送金ニーズも多く、その市場規模は600億ドルにも上るとのこと。数あるフィンテック系スタートアップの中でもこの分野は有望株となるだろう。(参入障壁が低いので今から参入する会社にはほとんど旨味はないかもしれないが。。。)我々ユーザーとしてもコストが安くスピードも速くなるので使わない手はない。
辛いのは旧来型の送金業務をしている銀行の外国送金部門である。さっさと撤退して送金業務自体をやめてしまうか、こういった新興企業を吸収合併するしか生き残る道はないだろう。
テクノロジーの破壊力はかくも巨大なり。
To be continued…
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